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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)99号 判決

東京都千代田区神田神保町三丁目四番地

原告

株式会社文伸社

右代表者代表取締役

野尻文夫

東京都千代田区神田錦町三-三

被告

神田税務署長

蔵坪達男

右指定代理人

大沼洋一

佐藤昭雄

斎藤正和

鈴木徹

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五六年五月一二日付でした昭和五四年二月一日から同五五年一月三一日までの事業年度分法人税に係る重加算税賦課決定(昭和五六年一〇月九日付異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書地において不動産業を営んでいるが、昭和五四年二月一日から同五五年一月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、被告に対し、法定申告期限内に所得金額を零円とする確定申告を行い、更に昭和五六年三月二三日総所得金額を三四八六万八一六八円とする修正申告をしたところ、被告は、昭和五六年五月一二日付で本件事業年度の法人税につき重加算税額を二五三万三二〇〇円とする賦課決定(以下「本件処分」という。)をした。

なお右重加税額は、被告の昭和五六年一〇月九日付異議決定により一部取り消され、一三九万三二〇〇円となった。

2  しかしながら、原告に所得金額の計算の基礎となるべき事業を隠ぺいあるいは仮装した事実は存しないから、本件処分は、国税通則法六八条一項に違反してなされたものであり、違法である。

3  よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。同2の事実は否認する。同3は争う。

三  被告の主張

1  本件事業年度における原告の課税所得中、本件処分で賦課した重加算税の額を算出する基礎となった法人税の所得(以下「本件所得」という。)は一一六一万円であるが、原告が昭和五三年九月二二日株式会社ウエダ(以下「ウエダ」という。)に対し借地権付建物(以下「本件建物」という。)を売却したことによって得た収益のうち、原告が帳簿書類に計上した六〇〇〇万円を超えるものであって、その内訳は次のとおりである。

(一) 不動産売却収益三〇〇万円

右は、本件建物の売却代金六三〇〇万円の一部である。

(二) 収入賦払利息一九八万二〇〇〇円

右は、原告がウエダに対して貸付けた六〇〇〇万円(右(一)の代金総額の内金六〇〇〇万円について準消費貸借契約を締結したもの。)の利息として本件事業年度中に収受されたものである。

(三) 借地権名義書換料六六二万八〇〇〇円

右は、原告がウエダから収受したものである。

2  原告は、本件所得について、次のような隠ぺい行為を行った。

すなわち、原告は、その帳簿書類には、本件建物の売却に係る収益として、そのうち六〇〇〇万円のみを計上し、その余の本件所得を帳簿書類に計上しないで、これに相当する金額を原告代表者からの架空の借入金として計上していた。また、本件所得のうち不動産売却収益三〇〇万円は大分銀行竹田支店の原告名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に入金されているが、原告は、右預金口座を原告の帳簿に記録せず、その存在を隠ぺいしていた。加えて、原告代表者は原告の経理担当取締役井上清からもウエダとの本件取引及び本件確定申告に関する報告を受け、自らも実情をすべて承知していたことに照らすと、原告は、本件所得につき税務職員が真実の所得金額を把握することを困難にする意図をもって、あえて本件所得を帳簿書類等に記載せず、故意に過少の収入金額を計上し、これに基づき本件事業年度の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を提出したことが明らかである。

3(一)  原告は、本件預金口座の通帳が原告の現金出納簿であると主張するが、次の事実に照らせば、右主張は理由がない。すなわち〈1〉仮に原告主張のとおりであるならば、原告の貸借対照表における「現金」の額は、右通帳の昭和五五年一月三一日における預金残高の額と一致すべきところ、前者は二万九八〇〇円であるが、後者は四三九四円である。〈2〉右通帳には原告に係る竹田養豚組合に係る態本中央食肉市場からの入金及び大分県信用農業組合連合会への出金も混入している。

(二)  また、原告は、本件預金口座が原告のものであるから、これに前記各非計上分収益を預け入れても、「隠ぺい」に当たらない旨を主張するが、帳簿書類に収益として計上しなかったこと自体が、「隠ぺい」に当るのみならず、右預金口座は、原告の本件申告書及び添付書類のどこにも記録されておらず、たとえ原告のものであるとしても、いわゆる「実名簿外預金口座」であるから、これに預け入れたことも、その収益を隠ぺいしたものであることは明らかである。

4  したがって、原告が本件所得に係る法人税の課税標準及び税額の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて本件申告書を提出していたことは明らかであるから、被告が国税通則法六八条一項に基づいてなした本件処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否並びに原告の反論

1  被告の主張1の各事実は認める。

2  同2の事実中、原告が不動産売却収益三〇〇万円を本件預金口座に預け入れたこと、収入賦払利息一九八万二〇〇〇円及び借地権名義書換料六六二万八〇〇〇円を原告の帳簿書類に収益として計上しなかったこと並びに原告代表者が税理士であることは認めるが、その余は否認する。原告とウエダとの本件建物の売買契約においては当初、代金六〇〇〇万円、借地面積一二〇坪という約束であったが、後日借地面積を実測したところ一三二・五六坪であることが判明したため、右増加分の追加代金として三〇〇万円を当初の代金に上のせした。したがって、本件確定申告書時には代金額が決定していなかったものであって、現に後日その旨右売買契約の公正証書を訂正して翌事業年度に上のせ分を申告し、かつ、右増加分に見合う更新料を地主である合名会社鈴木保有社(以下「鈴本保有社」という。)に原告から支払う約束をもしているのであるから、原告は、右三〇〇万円を申告しなかったことについて国税通則法六八条にいう隠ぺい行為をしていない。また、原告は債務超過により経営が出来なくなったので、昭和五六年六月三〇日解散の登記手続を経由し、原告代表者からの借入金をウエダからの受取手形をもって弁済した。そこで、原告代表者は取引銀行である豊栄信用組合の取立てを依頼したものであるから、原告代表者からの借入金が架空のものであるとする被告の主張は事実に反する。更に、本件預金口座は原告が昭和四八年ころ開設したものであるが、原告の収入を全額入金している正規の現金出納簿であって、所得を隠匿するためのものではない。現に本件事業年度においても原告は株式会社石田畜産からの経営指導料一〇〇〇万円を右口座に入金し、これを営業外収益として申告しており、被告はこれを是認しているのである。したがって、右口座に入金された不動産売却収益三〇〇万円が原告の帳簿に計上されていなかったからといって、原告が右収益を隠ぺいしたことにはならない。収入賦払利息及び借地権名義書換料の計上もれは、原告の不注意によるものであるから、隠ぺい行為には該当しない。

3  同3(一)の事実中、〈2〉の事実は認めるが、その余は争う。竹田養豚組合は、当時銀行取引停止処分を受けていたが、国の補助事業である関係から倒産させる訳にもいかず、取引先の態本中央市場と相談のうえ、いったん原告の本件預金口座に送金させ、これを全額大分県信用農業協同組合に送金して同組合の決済にあてたもので、単なる通過預金にすぎない。したがって、原告の貸借対照表における「現金」の額と預金残高の額がその途中において相違するのも、また当然である。同(二)の事実中、本件預金口座が原告の本件申告書及びその添付書類のどこにも記録されていなかったことは認めるが、その余は争う。

4  同4は争う(ただし重加算税の計算関係は争わない。)。原告代表者は税理士として三十余年税務会計事務に携わっており、原告が多額の赤字を出している青色申告会社であるのに、少額の所得を隠ぺいする必要は全くない。

第三証拠

当事者の証拠の提出、認否、援用は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載とおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(本件処分の経緯)及び被告の主張1(本件所得の存在)の各事実については、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、以下、原告が本件所得金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき本件申告書を提出していたものであるかどうかについて検討する。

被告の主張2の事実中、原告が不動産収益三〇〇万円を本件預金口座に預け入れたこと、原告は収入賦払利息一九八万二〇〇〇円及び借地権名義書換料六六二万八〇〇〇円を原告の帳簿書類にこれを収益として計上しなかったこと並びに原告代表者が税理士であることの各事実、同3(一)〈2〉の事実並びに同3(二)の事実中本件預金口座が原告の本件申告書及びその添付書類のどこにも記録されていなかった事実、以上の事実は当事者間に争いがない。右事実に成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第六号証、第八号証、乙第七号証、原本の存在及び成立の真正ともに争いのない甲第一〇号証、乙第三ないし第五号証、第一一号証、第一二号証、第一四号証の一ないし二五、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正がともに認められる甲第九号証、乙第一三号証の一ないし五二、証人井上清(後記措信しない部分を除く。)及び同柳沢哲の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は、金融業と不動産管理を目的とする会社であるが、ウエダとの間で昭和五三年九月二二日公証書により大要左記のとおりの契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一)  原告はその所有する本件建物を代金六〇〇〇万円でウエダに売り渡す。

(二)  原告とウエダは、右代金六〇〇〇万円につき準消費貸借契約を締結し、利息を二四〇〇万円と定め、ウエダは原告に対し、これを分割して昭和五三年一〇月一日から毎月一日限り一回から八〇回まで各二八万円、八一回から八四回まで各四〇万円を支払う。

(三)  ウエダは、右代金(準消費貸借元本)六〇〇〇万円を分割し、昭和五三年一〇月一日から毎月一日限り一回から三〇回まで各四二万円、三一回から八〇回まで各九〇万円、八一回から八四回まで各四〇万円を支払う。

(四)  ウエダは原告に対し、本件建物の敷地部分(以下「本件土地」という。)の借地権の名義書換料(借地権譲渡に対する土地所有者の承諾料に充当すべき金)として六〇〇万円を支払う。

(五)  原告は、昭和五三年一〇月一日までに本件土地の所有者である鈴木保有社(以下単に「地主」という。)から右借地権譲渡に関する承諾を得る。

なお本件契約時においては、本件土地の面積は一二〇坪とされていた。

2  しかし、原告は、右約定の期日までに地主から借地権譲渡の承諾を得ることができなかったため、同月二日ウエダとの間において次の内容の覚書を取り交わし、本件契約の内容を変更する合意をした。

(一)  原告は、昭和五四年五月末日限り借地権譲渡に関する地主の承諾を取得する。

(二)  ウエダが負担する地主への名義書換料は坪当たり五万円を限度とし、これを超過する分は原告の負担とする。

(三)  ウエダは、原告が地主の承諾を得るまでの間、原告に対して支払うべき代金等をウエダの代理人宛寄託する。

(四)  ウエダは、地主の承諾が得られたときは直ちに右寄託金を原告の本件預金口座に送金して支払う。

なお、右覚書においては、本社土地の面積は四三八・二一メートル(一三二・五六坪)と改められ、同年九月二六日付地積測量図が添付されている。

3  原告は、その後の協議によっても借地権譲渡に関する承諾を得られなかったため、昭和五四年九月二一日東京地方裁判所に対し、地主を相手方とする借地権譲渡許可の申立てを行い、右借地非訟事件手続において、遅くとも同年一二月二一日までには名義書換料(譲渡承諾料)として九六三万円を地主に支払うことを条件に借地権譲渡の承諾を得るに至った。そこで、原告は、ウエダとの間で、前記覚書(二)の約定に従い、公正証書上はウエダが負担する名義書換料を六六二万八〇〇〇円(五万円×一三二・五六)とし、実際の名義書換料(譲渡承諾料)との差額三〇〇万二〇〇〇円のうち三〇〇万円を譲渡代金に上積みし、代金総額を六三〇〇万円とすることに合意し、前記公正証書を本件土地の面積を一三二・五六坪、代金総額を六三〇〇万円とする等の点で訂正した。

4  原告は、ウエダに対し、昭和五四年一二月二一日本件建物につき同日付売買を原因とする所有権移転登記手続を行い、ウエダから現金九六三万円、約束手形額面七〇万円一五通、同二八万円五〇通、同一〇〇万円四通の合計六九通、額面合計七三五〇万円分を受領し、そのころ地主に対し、名義書換料として九六三万円を支払った。そして、原告は、右手形全部を豊栄信用組合に取立依頼し、その際、右手形金の入金は原告名義の預金口座ではなく、原告代表者である野尻文夫個人の普通預金口座に入金されるように手はずを整え、更に、ウエダから同月二五日に五〇〇万円、昭和五五年二月二九日に一〇〇万円、同年四月二〇日に二一〇万九五四四円を本件預金口座に振り込ませた。

5  しかるに、本件契約による本件事業年度内の収益中六〇〇〇万円を超える部分については原告の帳簿書類にこれを収益として計上せず、本件確定申告に際しても、特別利益中固定資産売却益の中に本件建物の売却益として六〇〇〇万円を計上しただけで、右六〇〇〇万円を超える部分については全く計上しなかったのみならず、本件預金口座を預金等内訳書に記載しないでこれを簿外とした。また、原告は、名義書換料として地主に支払った九六三万円を特別損益の部に仲介手数料名義で計上したにもかかわらず、前記ウエダから受領した名義書換料六六二万八〇〇〇円については、これを特別利益の部に計上せず、前記名義書換料九六三万円全額を本件売却代金の中から支払ったように経理操作して申告した。

6  本件契約の締結及びその履行に関しては、原告の経理担当取締役井上清が公正証書の作成等その一部に関与したほか、すべて原告代表者野尻文夫が直接担当していた。また、井上清は、毎決算期に帳簿類の内容を野尻文夫に報告し、同人の了解を得たうえ報告書を作成していた。本件申告書も井上清が野尻文夫から指示され、同人の了解の下に記載したものであり、本件申告書における前記会計処理も野尻文夫の意向によるものである。なお、野尻文夫は三五年ほど前に税理士の資格を取得した会計実務の専門家であり、井上清は税理士試験の勉強中で残り一科目に合格すれば税理士の資格を取得できる立場にある。以上の事実が認められる。

右認定事実、ことに本件建物の売却代金は遅くとも昭和五四年一二月二一日までには六三〇〇万円に確定していたと認められること、原告代表者野尻文夫は本件契約の締結及びその履行等に直接携わり、その内容を十分了知していたものであること、井上清は帳簿書類の作成、本件申告書の作成に関し右野尻文夫の指導と承認の下に行動していること、右野尻文夫は会計実務の専門家であること等の諸事情に照らすと、右野尻文夫は井上清と意を通じ、本件所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するために、所得の金額が過少となるような経理操作を加えた帳簿書類を作成し、あるいは本件預金口座を簿外とし、これに基づき一部内容虚偽の本件申告書を提出したものというべきである。

証人井上清の証言及び原告代表者本人尋問の結果中には、賦払利息及び借地権名義書換料合計八六一万円についての申告漏れは井上清らがうっかりしていたもので単なる経理ミスであるとする供述部分があるが、当初から本件契約に直接関与し内容を熟知していた会計専門家たる野尻文夫及び原告の経理担当者である井上清が、原告程度の規模の会社の会計処理において、八六一万円という高額の収益につき、その計上を失念したというのは、いかにも不自然であって到底措信し難いものというべきである。また、証人井上清の証言及び原告代表者本人尋問の結果中には、同人らは不動産売却収益 三〇〇万円について当時これは実質的にはウエダから地主へ直接渡されるべき性質の金員であり、原告の所得とは考えなかったために帳簿書類に計上しなかった旨の供述部分があるが(もっとも原告は右不動産収益が原告の本件事業年度における所得であることは争っていない。)、同人らの右理解に従えば、原告が地主へ支払った名義書換料はすべて損金として計上すべきでない金員となるはずであるところ、原告は前記認定のとおり名義書換料九六三万円を仲介手数料名義で損金として計上するという経理操作をしているのであるから、右各供述部分は現実になされた経理と矛盾するものとして到底採用することができないものといわざるを得ず、他に右認定判断を覆すに足りる証拠はない。

三  原告は、本件確定申告時までに本件建物の売却代金が六三〇〇万円と確定していなかった旨を主張するが、これが理由のないことは前記認定のとおりであって、原告の右主張は採用し難い。

次に、原告は、右代金額が公正証書上で訂正されていることをもって原告に隠ぺい行為は存しないと主張するが、たとえ契約当事者間で取り交された契約書が適正に作成されていたからといって、直ちにこれが課税当局に明らかになるわけではないから、それが原告の帳簿に正確に反映されておらず、したがって、確定申告に現われていない以上、右事情は原告に隠ぺいの意思が存しなかったことの裏づけにはならないものというべきである。

また、原告は、本件所得を翌事業年度に申告していることからしても、原告に隠ぺい行為をする意思は存しない旨を主張するが、課税当局の指示によって後に追加申告をしたからといって本件事業年度において隠ぺい行為する意思がなかったとするものではないから、原告の右主張も理由がない。

更に、原告は、不動産収益三〇〇万円については本件預金口座に入金してあり、これは原告の現金出納簿であるから、右収益を隠ぺいしたことにはならないと主張するが、本件預金口座には、原告に係る入出金ばかりでなく、原告代表者が別に経営する竹田養豚組合関係の入出金も混入していることは原告の自認するところである(右入出金についての原告の主張は、それ自体合理性を欠き採用できない。)うえ、仮にこれがすべて原告の取引に係るものであったとしても、前認定のとおり、原告が右預金口座を簿外とし、本件申告書及びその添付書類のどこにも右口座における入出金を記載しなかったものである以上、原告代表者に右口座に入金した金員について所得隠ぺいの意思がなかったものとすることはできないというべきである。(原告は、石田畜産からの経営指導料一〇〇〇万円は本件預金口座に入金し、かつ、決算書にも記載したところ、被告はこれを是認しているから、右口座は所得を隠匿するためのものではないと主張する。しかし、仮に右一〇〇〇万円が、本件預金口座に入金されたもの(昭和五三年四月一九日付)であったとしても、決算書上にそのことが明らかにされているわけではないから、右主張は理由がない。)。

四  以上によれば、原告は本件所得を隠ぺいしその隠ぺいしたところにより本件確定申告をなしたものというべきであり、原告の右行為は国税通則法六八条一項に該当することが明らかであるから、被告が同規定に基づいてした本件処分(重加算税の計算関係は当事者間に争いがない。)にはなんらの違法はないものといわなければならない。

五  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 穴戸達徳 裁判官 中込秀樹 裁判官 小磯武男)

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